然る放浪者の夜話 #3 族長
Web漫画「然る放浪者の夜話」の第3話です。
悪霊の振る舞いを黙認する族長達の真意は?
戦争、飢餓、疫病・・・かつて人々は多くの災難に見舞われた
人々を救うため十六人の族長が平和を祈ると三日月の夜に神が現れて族長たちに十六枚のオリーブの葉を与えた
族長たちがオリーブの葉を持ち帰ると争いはなくなり、大地は豊かに実り、病は消え去った
賢い王がよく働く民を導く平和な時代が訪れたのである
会議のために各地から集まった族長達が広間へ向かう様をみて奉公人が噂する。
「あぁ怖い。今回の族長会議は特にピリピリしてるわね。」
「そうでしょうよ。近ごろ各地で商いがうまくいかず巷には職に溢れた貧乏人がウロついてる有様。いくらヤズィード様の声がけとはいえ、こんな時に集められたらピリピリするわよ。」
族長達が席につくと座長のヤズィードが口をひらいた。
「さて・・・皆も勘づいていよう。"貧困"が祓われた。」
それぞれ勘づいていたものの、改めて告げられたことで動揺が走る。
「なんということだ・・・」
「やはりナギブの後任が必要だったのだ!」
「まだまだ被害は広まるぞ」
「祓ったのは放浪者の娘だとか・・・どうなさるおつもりですか?」
うむ・・・。
ヤズィードは低く唸って言葉を続けた。
「局所で苦しむ民が出ようと悪霊を祓わせるわけにはいかない。最初にそう決めたはずだ。その娘は始末する。」
「・・・そうもいかないでしょう」
壮年の族長サラバントが制した。
「娘はルビー鉱山では英雄として祭り上げられており、噂はじわじわと町々に広まっています。不審な消え方をすれば人気を妬んだ族長の仕業だと新たな火種になり兼ねない。ただでさえ我々は一度彼らの悲鳴に目を背けたんだ。」
これには他の族長から野次が飛んだが、ヤズィードは静かにサラバントの言葉を受け止めた。
「サラバントの言うことも尤もだ。切れ者を友に持って嬉しいぞ。・・・案ずるな。鼠一匹、野犬を嗾けて食わせれば我々の足が付くこともあるまい。」
次のお話
前のお話