然る放浪者の夜話 #2 貧困(2)
Web漫画「然る放浪者の夜話」の第2話(パート2)です。
ちょこちょこ忘年会が入ってて生活リズムが崩れがちです。
夜の飲み会じゃなくて昼の芋煮会とかで忘年会してくれたら、もう少しヘルシーな年末を過ごせると思うんだけどなぁ。
気力が底を尽きる前に
「助けてくれる気持ちは嬉しいけど手遅れだ・・・。」
「豆齧って飢えを紛らわすくらいドン底に落ちてるんだ。」
「何やったって元には戻れねぇよ・・・。」
集まった町人たちは力ない声でポツリポツリと諦めを口にした。
『貧困の核心は無気力』
まさしく、悪霊の言葉は核心をついていた。
無気力な町人には貧困から抜け出そうという発想すらない。
ただ、沼の底に沈むのを身動ぎもせず待つだけなのだ。
ロナは町人が溢した豆を拾い上げて言った。
「見てなさい。豆で世界は変えられることを教えてあげる。」
さて、町外れでは痩せた牛が放牧されていた。
居眠りする牛飼いに気づかれぬよう牛に近づくとロナは素っ頓狂な声を上げた。
「んああああぁぁぁぁぁっ!!」
「何だ?どうしたっ!」
飛び起きる牛飼いにロナが掴みかかる。
「私がここに置いた豆を牛が食べたのよ!どうしてくれンの!」
見やると牛が貧相な豆を貪っていた。
「えぇ?何でこんな所に豆を・・・?」
牛飼いは突然の言いがかりに混乱しつつ、詫びて弁償を申し出るがロナの勢いは止まらない。
「商人の父が辺境から持ち帰った希少豆なのよ!安物に替えられたんじゃ堪らないわ!」
「今すぐ牛から私の豆を取り出してよ!できないなら・・・」
一部始終を物陰から見守るのは、先ほどの無気力な町人たちである。
やがて満面の笑みで戻ってきたロナ。
その手には牛の手綱が握られていた。
「えぇ・・・?豆粒を牛で弁償させたのか・・・?」
ヤクザ者の如き横暴に悪びれもせずロナは町人に発破をかける。
「やろうと思えば人間、どんな状況からでも立ち上がれるわ。」
「でも、ぼやぼやしないでよ。無気力に沈み込むほど立ち上がる地点は低くなるわ。今この瞬間よりもやり直しに最高のタイミングは後にないのよ。」
わずかな沈黙の後、町人から初めて熱のある言葉が漏れ始めた。
「・・・もう空腹で眠れない夜はたくさんだ」
「悪霊といえど相手は一人なんだ・・・」
「活気のあったルビー鉱山を取り戻すんだ・・・!」
湧き上がる町人たち。
さぁ、沼の底へ沈みきる前に立ち上がるのだ!
悪霊・貧困がその様子を遠くの屋根から伺っていた。
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